「約款(やっかん)」って何? ~「聞いてない!」は通用しない~
2018年6月29日
日々ご相談をお受けする中で、「約款」に関するご相談をお受けすることが時々あります。
「約款」とは、たとえば旅行の予約をするときにパンフレットの後ろの方をよく見ると小さな字でびっしりと書いてあったり、ネットショッピングの時に「購入前に必ず利用規約をお読み下さい」と長い文章が表示されたりする、あれです。こうした「約款」(「利用規約」「利用条項」など、名称は色々です)は、実は私達の日々の暮らしのあちこちで出てきます。上記の他にも、たとえば携帯電話の契約をするときや、駐車場に車を停めるとき、ホテルに泊まるとき、郵便を送るとき、電車に乗るときなどにも、私達は知らず知らずのうちに業者の用意した「約款」に同意したということになっています。
たとえ「約款」を事前に見せてもらえる場合でも、字が小さくて内容も難しそうだし、ろくに読まないで契約してしまうことがほとんどではないでしょうか。しかし、後で何らかのトラブルになった時には、業者は「いやいや、ここに書いてあるでしょう」と言って、「約款」で決まった条件を譲ってくれることは滅多にありません。実際には読んでもいないのに、「約款」が契約の内容になってしまい、従わなくてはいけないというのは、何だか釈然としませんね。
民法では、契約は互いの意思の合致によって成立することになっているところ、実際には同意していなくても(たとえ存在すら知らなくても)「約款」に同意したものと扱われ、従わなくてはいけないというのは、非常に重大な例外といえます。なぜこのような例外が認められているのかと言えば、日々大量の取引が行われる現代社会では、定型的な取引についてはこのような扱いを認めないと社会が成り立たないからと言うほかありません。
とはいえ、業者が勝手に決める「約款」の内容が、何でも有効なのかというと、さすがにそうではありません。過大な違約金を定める、業者を不当に免責するなど、信義則に反して消費者の利益を一方的に害する条項は無効です(消費者契約法8~10条)。
しかし、具体的な条項の有効・無効が法律を読んだだけでは分からないことが多く、消費者と業者との間で争いになることが少なくありません。そして、「約款」の条項を無効と判断した裁判例もあるものの、個々の契約の単価が低い場合が多いことに照らすと、業者が譲らない時に消費者が無効の主張を貫くことは、容易なことではありません。
このような「約款」について、現在の民法には、驚くことに何も規定されていません。現在国会で継続審議中の民法改正で、新たに民法に「約款」に関する規定を設けようという動きがあります。改正後の条文は、いまのところ、上記のような現行の扱いを大きく変えるものにはならない見込みです。自身にとって重要な契約であればあるほど、面倒でも事前に「約款」をよく読み、納得してから契約することが、私達が身を守る上では引き続き大切です。